小四第三話
水妖怪雨女郎の巻
本編
雨がしとしとふる日……、
そんな日……、
町のかたすみに ぽつんとおいてある かさ
ひろってはいけませんよ。
そんなかさには……、
そんなかさには……、
妖怪がすみつくことが あるんですよ!
けけ…
「ヒャーッ まいったまいった。」
バシャバシャと水音を立てながら、ランドセルを背負ったツトムくんが木の下に走って来る。
「天気予報じゃ きょうは晴れだっていったくせに。」
濡れた髪を手ではらうように水をはじく。
ふと、木に立て掛けてある傘に気付くとキョロキョロ辺りを見回すツトムくん。
「ウキキ。ついてるう。
だれかわすれてったな。もうけもうけ。
あめあめ ふれふれだい。」
嬉しそうに傘を開き、上機嫌で歩き出すツトムくん。
しかし、その傘の先端が着物の女性の上半身に変化した事には気付かない。
妖怪「………。」
ポツン
「?」
傘の内側から水滴がかかった。
「雨もりするのかな?」
ザーッ ザーッ
「あれ?
ゲゲ、外よりもかさの中のほうが たくさんふってきた。」
ききき…
ツトムくん「ああ。」
無気味な笑い声と同時に、傘が着物の女性に変身する。
雨女郎 | 「水妖怪 雨女郎!」 |
ツトムくん | 「ああ。息ができない!」 |
雨女郎の体の中に取り込まれ、ゴボゴボと水の中で苦しむツトムくん。
「苦しめ苦しめ。もうすぐおまえのたましいは わたしのものじゃ。」
その時、丁度カパエルがやって来た。
カパエル | 「ア〜メがふ〜りまス」 |
雨女郎 | 「むっ」 |
カパエル | 「雨の日の妖怪パトロールは楽しいな。」 |
バシャバシャと地上クロールで泳ぎながら上機嫌。さすが河童。
カパエル「あれは……?ツトムくんじゃおまへんか。」
道で倒れているツトムくんを発見。
カパエル | 「ツトムくん こないな所でいねむりしたらあかん。かぜひきまっせ。 あかん すごい熱や。 すぐ手当てしますさかい しっかりね。」 |
ツトムくんを背負い走り出す。優しいなあ。
水たまりから頭を出す雨女郎。
雨女郎 | 「やつのあとをおえば えん魔がいる。 やつらはじゃまなやつ、かたずけておくか ヒヒヒ………。」 |
水と同化し、カパエルの後を尾けて行く。
洋海学園ものおき
体育マットに寝かされたツトムくんが、雪子姫の手当てを受けている。
えん魔くん | 「どうだ雪子姫。」 |
雪子姫 | 「へんよ、いくら手当てしても熱がさがらない。」 |
えん魔くん | 「やはり妖怪のしわざか。」 |
シャポー | 「この熱のあがりかたからみて まちがいない。」 |
ツトムくん | 「水……。水……。」 |
シャポー | 「よし わしがくんでくる。」 |
そう言うと外の雨樋から流れる雨を、体を逆さまにして汲むシャポー。
おいおい;せめて水道の水にしてあげてよ〜。腹痛起こすぞ。
シャポー | 「どうじゃ。」 |
雪子姫 | 「だめだわ。はきだしてしまうわ。」 |
えん魔くん | 「これは妖怪をやっつけなくちゃ なおらない。」 |
雪子姫 | 「口うつしでのませてみるわ。」 |
えん魔&カパ | 「なぁーに」 |
口移しと聞いた途端、仰天する2人。
えん魔くん | 「あっ。」 |
カパエル | 「うっ。」 |
えん魔くん | 「雪ちゃん。」 |
雪子姫 | 「どうしたのえん魔くん!」 |
ヨロヨロヨロけながらマットに倒れ込むえん魔くん。
えん魔くん | 「頭が急に…。 水、水、水……。」 |
カパエル | 「ぼくも水。」 |
えん魔くん | 「とてものめそうにないから 口うつしでたのむね。」 |
カパエル | 「ぼくも口うつし。」 |
下心見栄見えです(笑)
案の定、姫にドバーッとシャポーの水をかけられる。
えん魔くん | 「ひでえことするなあ。」 |
雪子姫 | 「ふざけてる場合じゃないでしょ。」 |
倉庫下の格子の隙間から、液体状の雨女郎が入り込む。
(………。 あれがえん魔か! たいしたことなさそうだな。)
しかし、えん魔くんの眉毛のアンテナが妖気を捉え、ビビビと反応。
「むっ。」
飛びかかるように、ステッキでバシッと床の水たまりを殴る。
えん魔くん | 「そこにいるのはだれだ!」 |
雨女郎 | 「ぎゃっ! えん魔、よく見やぶった。 ただのこぞうだと思ったが やるな。」 |
液体状のまま、壁をつたい天井にのぼって行く雨女郎。
えん魔くん「あっ。」
天井からポツポツ、雨女郎の水滴が落ちて来る。
雨女郎 | 「しかし、このくらいでやられる雨女郎ではないぞう。」 |
えん魔くん | 「雨女郎だと!」 |
シャポー | 「えん魔くんいかんぞ この雨はどく薬だ。」 |
えん魔くん | 「マントよ かさになれ。 雪ちゃん もっとおしりをこっちによせないと ぬれますよ、へへへへ…。」 |
雪子姫 | 「あっ、いやあん。」 |
カパエル | 「ヒヒヒ。」 |
傘の中に全員入っておしくら饅頭状態。えん魔くんとカパエルはこんな時でも下心消えず(笑)
傘が小さいなら大きくすりゃいいのに、と言うのは野暮だね。
ちゃんとツトムくんも入れてあげてるのが優しいなあV
えん魔くん「ぎゃく台風だい。」
傘を盾にグルグル回転させ、雨を飛ばし返す。
雨女郎 | 「いかん 雨がかえってくる。」 |
えん魔くん | 「火えんぼう。」 |
雨女郎 | 「ぎゃ〜っ」 |
ボワ〜ッと燃えたのは、雨女郎の着物だけ。
えん魔くん | 「へへへ、着物だけふっとばしたぜ!」 |
カパエル | 「ヒハー。いろっぺえです。」 |
思わず両腕で胸を隠してる雨女郎に女の恥じらいを見た。
えん魔くん | 「女の妖怪が出る日のため、このわざを日夜、練習したんだ。」 |
カパエル | 「ご苦労のかずかず おさっしいたしやす。」 |
えん魔くん | 「やあい はだかにされちゃって。」 |
すっかり余裕ぶっこいてるスケベ野郎2人。口笛でピーピーと囃し立てる。
大股開きで逆上する雨女郎。
雨女郎 | 「うぬーっ。もう頭にきた。」 |
えん魔&カパ | 「わあ、すごい。」 |
雨女郎 | 「そんなに見たけりゃ わたしのからだの中でみろっ! こう水の中で!」 |
2人とも雨女郎の水の体の中にあっさり取り込まれる。
えん魔くん | 「見ようとしすぎてゆだんした。」 |
カパエル | 「楽あれば苦あり、ほんまでんな。」 |
ゴボゴボと水の中で溺れ苦しむ2人。油断しすぎ。自業自得です。
雪子姫「雪ビーム!」
雨女郎「ぎゃ〜っ」
待ってました、我等が雪子姫。必殺技の雪ビームで雨女郎はカチンコチン。
雪子姫 | 「どう?えん魔くん 女のこわさわかった。」 |
えん魔くん | 「はい、もうとっても………。」 |
シャポー | 「このまま魔界におくりましょ。」 |
えん魔くんとカパエルは頭だけ出た状態で、体は雨女郎ごと凍り付いている。
雨女郎が退治されたお陰か、ツトムくんはすっかり元気になったようだ。良かった良かった。
小学四年生1973年12月号/完
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